「食品の新規制値」決定プロセスで現れた「やらせ」に抗議する

by ihst | 2月 27th, 2012

 福島原発事故に関連しては、上空飛行制限が20km圏内禁止から3km圏内禁止に昨日変更されましたが、なお問題山積です。橋本大阪市長は、「がれき処分を引き受けないという(態度の根源は)すべて憲法9条にある」とツイッターで流していると報道されています。こんなめちゃくちゃな発想で、教育目標を自分が決めたいと言っているのでしょうか。こういう発想では被災者・被曝者問題を解決することは不可能で、絶望的です。

市民の被曝問題・食品規制は依然として厳しい状態が続いています。4月からの新規制値設定に関連して、科学的知見をどう反映させられるかは、重要な局面を迎えます。この問題は、科学者には(科学的意見には)いろいろある、だけではすみません。そのようなスタンスでは、現在の最良の科学的成果で市民を守ることはできないばかりか、御用学者を生む土壌をつくってしまいます。社会の中で活動している科学者は、いろいろな社会的関係と身分を持っていますが、その関係において自らもいろいろな利害に関与しています。そのような社会的諸関係に影響されての意見と、現在の科学的研究の到達点での「科学的知見」を区別することが重要です(科学者の2重性)。

 内部被曝に関して、[市民と科学者の内部被曝問題研究会]が去る2月19日に下記のような声明を発表しています。(紹介です)

「食品の新規制値」決定プロセスで現れた「やらせ」に抗議する http://www.acsir.org/
2012年2月19日 市民と科学者の内部被曝問題研究会 代表者 沢田昭二

食品に含まれる放射性セシウムの新基準値(案)について、厚生労働省は意見公募(2012年1月6日~2月4日)を実施しました。この公募には、約1700件の意見が寄せられ、もっと厳しくすべきだとの意見が約1400件(82%)(厳しすぎるとの意見は約40件)と圧倒的に多かったと報道されています。文部科学省の放射線審議会は、この案の妥当性について諮問を受け、1月16日これを了承する答申をまとめ公表しました。

ところが、放射線審議会前会長(東北大学名誉教授)中村尚司氏および現会長の丹羽太貫氏が、複数の関係学会会長に「やらせ」の意見提出を各学会会員に要請する文書を出していたことが判明したのです。それは、「(厳しすぎる基準は)安全性の評価と社会的、経済的影響に関する検討がなされておらず紛糾している」などとして、関係学会関係者を通じて学会下部組織の会員らに要請文をメールで送ったという趣旨の報道(2012年2月16日、17日付全国各紙、共同通信)です。

放射線審議会が、答申に別紙を付して「答申が厳しすぎる」旨を表明する見通しだったとしても、両氏が反対意見の提出を関係学会に要請することは絶対に許されず、放射線審議会による明らかな「やらせ」と言わざるをえません。

これは、公職の「放射性審議会長」に在った者あるいは現にある者が世論偽装工作に関与したことを明白に示すものであり、民主主義国家にあるまじき行為ですから、見過ごすことは断じてできません。私たちは強く抗議し、厚生労働省と文部科学省に対して、国民の前に真相を明らかにし、事実の経緯と責任の所在をはっきりさせることを要求します。
この要請文に対して、小宮山洋子厚生労働相は、17日の記者会見で「あってはならないこと。(反対意見の動員は)パブコメの本来の趣旨に反する」と批判したそうですが、当然の反応でしょう。しかし、平野博文文部科学相は「専門家としての行動。審議会の議論に影響を与えていれば問題だが、そういう事実はない」と話した(17日、共同通信)とあり、看過できません。
いわゆる「原子力村」の強引な民主主義に敵対する行為が引き続いて生じること自体が、日本の原子力・放射線管理を巡る「安全神話」の危険な醜態を如実に示しています。8カ月前の2011年6月、玄海原子力発電所2、3号機の運転再開に向け、経済産業省が主催し生放送された「佐賀県民向け説明会」実施にあたり、九州電力が関係会社の社員らに、運転再開を支持する文言の電子メールを投稿するよう指示していた「世論偽装工作事件」(サクラ、やらせ)は、未だ記憶に残っています。
「原子力村」の一翼を担う科学者集団としての学会が、かかる反民主主義的、非科学的行動を続けているのです。
そもそも、元会長らが要請理由の第一に挙げる「安全性の評価と社会・経済的影響に関する検討がなされていない」ということは、率直に言えば、放射線の管理を「人間の命と健康を守るために行う」のではなく、「東電と政府の事故に対する責任を如何に少なくするかの検討をしないといけない」という意味であり、ICRP(国際放射線防護委員会)の“ALARA勧告”などに謳われている、「原子力村」だけがメリットを得る手前勝手な功利主義そのものです。
 「電力を得るという公共のメリットのためには犠牲が出てもかまわない」という考えは、憲法の基本精神である「個の尊厳」と、25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定されている精神に、真っ向から反する憲法違反の考え方です。
 犠牲の強要をシステムとして住民に押し付けなければやっていけない原発は、もともと存続させる根拠が無かったのです。住民への犠牲の強要は、事故が起これば途方もなく大きくなります。事故で放出される放射能で汚染されることは、住民には何のメリットもありません。功利主義の前提条件にも反します。東京電力は全存在を掛けて、住民の被曝を防護しなければなりません。
 ドイツでは、一般住民の年間被曝限度は0.3ミリシーベルト(mSv/年)です。日本でも、内部被曝も考慮して住民の被曝を防護するためには、ドイツ並みの被曝限度にしなければ、住民の健康を守ることは不可能です。新基準値は少なくともドイツ並みの5ベクレル(Bq/kg)程度にするべきです。放射線感受性の高い乳幼児向けの乳幼児食品が50ベクレルとはもってのほかで、1ベクレルにするべきです。
 今後、汚染は長期にわたって続きます。チェルノブイリ周辺の住民は、貧しいがゆえに放射能汚染食品を食べなければなりませんでした。一方、日本では、政府の強制で汚染食品を食べさせられようとしています。私たち住民は、真剣に被曝ゼロを目指すことを求めなければ、自らの命を守れません。
少なくとも百年先を見通しながら、農業・畜産業・林業・水産業を続け、伝統文化を守り発展させ、食糧自給率100%を目指すためには、家族ぐるみ、集落ぐるみ、村・町ぐるみの集団疎開が、緊急の必要条件です。
 この長期的プロジェクトは、中央政府が大きな基金を準備して財政的に支える仕組みをつくらない限り、不可能です。被曝し続けている子どもたちのいのちをまもるために、多額の税金も投入するべきです。自然環境を守りながら安全な食糧を生産するために、多額の税金も投入するべきです。これこそが、真の意味での国の防衛ではないでしょうか。
 私たちは、子どものいのちを守る立場から、このような原発推進者側の「やらせ」行動を厳しく糾弾し、以下の2点を強く要求します。
1)厚生労働省と文部科学省に対して、遅くとも今年3月中旬までに、国民の前に「やらせ」の真相を明らかにし、事実の経緯と責任の所在をはっきりさせること。
2)圧倒的多数の市民の意見・希望に応えて、さらに厳しい食の基準値を定めること。
以上

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