特定非営利活動法人科学史技術史研究所 設立趣意書 |
日本の科学史・技術史研究は、大学等での研究教育ポストが確立していない頃から、多くの個人の努力によって積み重ねられ、今日、専門学会の日本科学史学会も1000人を超える会員を擁するまでになった。また、関連の科学史関係、技術史関係の学会も幾つか設立されている。しかし、現在、日本の科学史・技術史研究は、ある種の世代交代期を迎え、また制度的にも大学での研究・教育ポストが減少しているのではないかと懸念されている。こうした状況の中で、日本社会における科学史・技術史研究を支える様々な試みが必要とされている。とくに若手や大学以外の研究者の研究を促進することが望まれている。他方、先代の科学史技術史研究者は、これまで個人的な努力によって本分野における史資料を蒐集されてこられたが、これらの史資料を正当に保存・公開する公共的な機関が日本にはない。その結果、これらの貴重な史資料は散逸の危機にさらされている。
今日、科学史・技術史関係の史資料を利用すること自体は、資料情報の電子化により、格段に便利になってきた。しかし、かといって史資料そのものが失われてよいというわけでもなく、また史資料の発掘や保存、あるいは便利な利用方法を確立することは依然として重要な課題となっている。 両者すなわち研究の発展と科学史技術史関係史資料の保存・公開を結合させていくことは相補い合う関係にもなりうる。ここから、たとえば、元東京工業大学教授田中実(故人)、飯田賢一(故人)、元日本科学史学会及び産業考古学会会長山崎俊雄(故人)、元日本科学史学会会長菊池俊彦、現同会長道家達将の各氏の蒐集された史資料などを保存・公開してこれらに依拠して、科学史技術史の研究活動を展開する活動は、今日の学術の現状からはひとつの重要な活動となると考えられる。もちろん、史資料としてはこれら以外にも科学史技術史関連史資料を、さらに多く発掘・保存し、研究者の利用への便を図ることも重要であるので、こうした活動をあわせて行うことも社会における史資料の保存と学問活動を進める上で焦眉の課題と考える。 ところで、今日、いわゆる「理系離れ」をはじめ理科教育や、科学と技術そのものあり方は社会的に大きな問題となっているが、科学史技術史の研究を振興することは、科学史技術史が社会と科学・技術のあり方を検討することを含むことから、理科教育の改善や今日の国民生活と科学・技術のあり方を検討する上でも重要な貢献をなすことにつながるものである。こうした活動は社会教育的にも重要な意味をもつものである。 以上のように、史資料を発掘保存、そして公開しながら、それらに依拠して科学史技術史の研究をすすめることによって、本法人は学術活動それ自体にもおいても、またそれを通して現代科学・技術のあり方を検討することからも社会や、社会における様々な形での教育にも貢献しうるものである。 これまで、科学史技術史上の重要資料を蒐集してきたが、任意団体としては史資料のさらなる蒐集、あるいは研究プロジェクトの遂行および研究契約においても一定の限界がある。特定非営利活動法人として公的な性格を明確にすることにより、一般市民に対する情報公開や、史資料の蒐集と保全も公的な責任をより強く負うことになり、さらには本研究所の活動を充実させることができると期待されているものである。 平成 21年12月20日 氏 名 木本 忠昭 印 |